スタッフ用
日本看護科学会誌
研究報告
高齢者のうつ病からの回復
生活世界との関連における検討
”うつ病高齢者の他者との関係では,彼らの住んでいる場での一体感が重要であり,そのような機会を創造することの重要性が述べられており(Nyman et al., 2012),高齢者に特有の環境との関係のもち方や身体・精神・社会的特徴なども考慮したうつ病からの回復についても明らかにする必要があると考える.”
3)【生活世界へ帰還するきっかけの実感】
うつ病高齢者は,精神科治療を受ける中で,【生活世界からの疎外や圧迫】【厭世観による死の衝動からの支配】から解放され,うつ病が寛解する兆しを実感していた.それは,自己の心身の苦悩を他者に理解してもらえたと実感できた時や苦悩の原因が自分なりに理解できた時であった.
Aさんは,心身の苦悩が誰にも理解してもらえないと思い孤立無援感を体験していたが,治療者が苦悩に寄り添うことによってその関係性の中で病気が良くなることを実感していた.
困った時でも,少々痛い時でもいつも我慢してる.言ったからって,注射して治るわけでもないし.誰にもわかってもらえない.Iさん(特定の治療者)は少しわかってくれてるね.「腰が痛いから大変だね」って言ってくれるから.今までそんなこと言ってくれた人いないですよ.Iさんがおいでた時分くらいからかな,そんなに腰痛くならなくて過ぎたんです.〈Aさん〉
”うつ病高齢者は,家族や信頼できる治療者とのなじみの関係の中で,心身の落ち着きを取り戻したり,日常生活の中で自分なりのペースでの生活を取り戻したりすることによって,生活世界の中で活きる場や生きがいを再獲得していた.”
老年期は,中年から初老期までの年代と比較して,元々状況からくる抑うつ的な心理状態にあること,日常的には心理的な平衡を保っていても,それは危うい基盤の上に成り立っているものであるため,些細な破綻でも多くの因子が関連しあい,簡単に崩れるほどの厳しい平衡であること(竹中,2010)が言われている.そのため,老年期は他の年代と比較して,精神状態が脅かされやすく,生活世界からの疎外が深刻化しやすいことが考えられる.また,うつ病高齢者は,老いることの重みや他者との相互作用による自己の存在価値の低下と孤独(田中ら,2012)を切実に体験しており,彼らが急性期に体験する苦悩の本質は,【生活世界からの疎外や圧迫】にあると考えられよう.
高齢者にとって,うつ病からの寛解のひとつのきっかけは,他者との共通言語の中で抑うつの苦痛を表現できるようになることといえよう.また神田橋(2012)が,すべての回復は根本の自然治癒力によって起こると述べ,病気の状態像や経過,薬の適切な活用,人からの受容,人との絆は,自然治癒力を助けるものであるという考えを示しているように,精神科治療を受ける中で,さまざまな要因によって高齢者のもっている自然治癒力が動員されることが,うつ病からの回復過程を促進する原動力になっていると考えられよう.

