定年したら、電話が鳴らなくなった。|肩書を外したあとの会話。

定年したら、何をしよう。

あそこに旅行へ行ってみよう。やりたかった趣味を始めてみよう。
思う存分ゴルフをするぞ、という人もいれば、車で好きなところへ行ってみようと思う人もいると思います。

定年が近くなると、そんなことを考える人は多いようですが、
これまで、リタイアされた方を多く見てきて感じているのは、
定年すると、時間が増える一方で会話が減るのではないか。
ということです。

今日は、そんなことを書いてみようと思います。

電話が鳴らなくなる

現役で働いていると、毎日のように誰かと話していると思います。

人付き合いが苦手だと思っている人でさえ、
気が付いていないだけで、かなりの数の言葉を人と交わしているはずです。

ところが仕事を辞めると、それが突然なくなるのは、
嫌われたからではなくて、電話をかける理由がなくなるからなんですよね…

仕事の用事がなければ、相談や報告をする必要もありませんし、
毎日のように話していた人と、いままでのように話す理由がなくなってしまいますものね。

「友達がいるから大丈夫!」

そう思っている人は多いようですが、
お友達には定年後のお友達の生活がありますものね。

お仕事をしている人もいれば、
夫婦で出かける人もいるでしょうし、孫の世話をされている人もいますものね。

自分が定年して時間ができたからといって、
友達にも同じ日に同じだけの時間ができるわけではないんですよね。

これは夫婦でも同じことで、
旦那さんは定年した翌日から時間ができるわけですけれど、
奥様の生活まで翌日から白紙になるわけではないですものね。

奥様には奥様のリズム、生活がありますし、
友達もいれば、予定だってある。

一人で過ごしたい時間もある、という人は実際、多いです。

定年すると自分に時間ができるわけですが、
周りの人まで、自分のための時間ができるわけではないんですよね。

ここを考えていない人は多いように感じています。

もう一つ、定年すると外れるものは肩書です。

現役時代には、「俺が若い頃はね」と話し始めると、
聞いてくれる人がいたかもしれません。

部下が何十人もいたとか、大きな仕事を任されたとか…

周りにはいつも、「そうなんですね」「すごいですね」と聞いてくれる人がいたと思いますが、
本当にそうした話を聞きたかったのでしょうか…

定年すると、そうした関係がなくなって、
肩書がなくなってしまえば、一人の人ですものね。

そこで初めて、
自分の話を聞いてもらっていたのか、肩書の話を聞いてもらっていたのか。

それを知ることになるのかもしれません。

私は、昔話そのものが悪いとは思いませんが、
「昔は偉かったんだぞ」みたいなお話をされても困ってしまいます。

「部下が何十人もいたのに、定年したら電話一本かかってこなくなったよ(笑)」なんて、
そんなふうに面白おかしく話してくださる方のお話でしたら、聞いてくれる人もいるというもの。

自分を自慢する話と、昔の自分を笑える話。

同じ昔話でも、ずいぶん違います。
過去を勲章として見せるのではなく、笑い話にできる。

そんなことも大切になるのかもしれません。

一番近くにいる家族でさえ…

会社で話を聞いてくれる人がいなくなったら、家で話せばいい。

そう思う方もいらっしゃるかもしれませんが、
一番近くにいる家族でも、いつまでも同じ話を聞いてくれるとは限りません。

現役の頃は何らかの肩書もありましたから、
自慢話でなくても、自分の話を会社でしていたという方もいらっしゃると思います。

ところが定年すると、聞いてくれる相手がいなくなってしまいますから、
「話したい」という欲求が家庭へ向かうことがあるようです。

でも、
奥様は、旦那さんの部下ではありませんものね。

旦那さんが退職したからといって、
奥様がその日から旦那さん専属の話し相手になるわけなんて、あり得ませんものね…

話を聞いてくれる人を探し始める

それでも、人は誰かと話したい。

電話は鳴らなくなりますし、同僚とも会えない。
友達には友達の生活がありますし、奥様は自分の話を聞いてくれない…

そうなると、別のところに話し相手を求める人が多いように感じるんですね。

喫茶店の店員さんや、病院の先生。
市役所の職員さんなど…

みんな、話を聞いてくれると思いますが、
忘れてはいけないことがあると思うのです。

相手が話を聞いてくれていることと、
相手があなたと話したいと思っていることは、同じではないということです。

店員さんには仕事がありますし、先生には次の患者さんがいます。
市役所の職員さんも忙しいですしね。

お仕事ですから、途中で「もうあなたとは話しません」とは言えないだけかもしれません。

それなのに、
「この人は自分の話を聞いてくれる」と思って、話し続けてしまう…

本人には悪気がないのかもしれませんが、
相手は困っているかもしれません。

この辺りに気づけなくなると、
年齢とは関係なく、人との距離感が少し危うくなっているのかもしれません。

孤独が、さらに孤独を作ることもある

ここが難しいところなのですが、
話す相手がいないと、誰かに話したくなる…

ところが、自分の話ばかりしてしまって、
相手の話を聞くことなく、同じ話を何度もしてしまう。

相手が退屈していることにも気づけなくて、
人がだんだん離れていくんですよね。

結果的に「誰も話を聞いてくれない」という悪循環を起こしてしまうわけですが、
孤独だから話したいという気持ちは十分理解できても、
一方的に話してしまうことで、人が離れてしまう。

人が離れることで、さらに孤独になってしまう…

そうしたことは意外に多いようです。

会話は、話すことだけではない

考えてみれば、会話というのは難しいものなんですよね。

話す。聞く。相手を見る。

少し待つこともそうですし、話題を譲ることも大切なこと。

笑うことも、相手の話に興味を持つことも大切なことで、
「自分が話したいことを話す」だけでは、会話にはなりません。

現役時代には、肩書や仕事上の関係が、
その部分を隠してくれていたということもあるのかもしれませんが、
肩書がなくなってしまって最後に残るのは、

一人の人として、誰かと一緒にいられるか。

ということなのだと思います。

昔、どういう人だったかというより、
今、その人と一緒にいて楽しいか。

これは定年後でなくても大切なことですが、
定年後はより強く感じるようになるのかもしれません。

それでも話を聞いてくれる場所

そんなことを考えていくと、
スナックという場所は、少し変わった場所だと思うんですね。

特別な相談がなくてもいいですし、結論なんて出なくてもいいですしね。

昔の話でも、今日あったくだらない話でもよくて、
ときには、「その話、前にも聞いたよ!」なんて言われてしまう…

それで、またみんなで笑う。

普通なら少し面倒くさいと思われるような人でも、
スナックのママは簡単には仲間外れにしませんものね。

もちろん、何をしても許されるという意味ではありません。

話があまり上手ではない人もいれば、
空気を読むのが少し苦手という人も実際、いらっしゃいます。

同じ話をしてしまう人だっているわけですが、
そうした人でも、人のいる場所に座っていることができるんですものね。

私は、そこにスナックという場所の不思議な魅力を感じるんですね。

大人が、少し甘えてもいい

病院は話をするために行く場所ではありませんし、市役所だって違います。
喫茶店の店員さんだって、ずっと自分の話を聞くために働いているわけではありません。

でもスナックでは、

「今日は俺の話を聞いてよ」と言うことができるんですよね

それを仕事の一つとして受け止めてくれる。

大人がそんなふうに少し甘えることのできる場所って、
世の中には案外少ないのかもしれません。

もちろん、
スナックだからといって、自分だけが何時間も話し続ければいいということではありません。

でも、少しくらい話が長くなったり、
同じ話をしてしまったり、ときには自分のことばかり話してしまったりしたとしても、
ママがちゃんと話を受け止めてくれる。

そして、ほかのお客様の話へつないだり、
みんなの会話に戻したりしてくれる。

少しくらい会話が上手でなくても、人の中にいさせてくれる。

私は、スナックというのは、そういう珍しい場所でもあると思うのです。

肩書を脱いだあとの自分で

定年後に必要なのは、趣味や旅行など、時間の使い方だけではないと思うんですね。

どこへ行けば話し相手がいるのか。
肩書のない自分と誰が付き合ってくれるのか。

そうしたことも、元気なうちから考えておいた方がいいのかもしれません。😊

話し相手がいなくなってから、話し相手を探そうとしたり、
寂しくなってから居場所を探そうとするよりも、

まだ元気なうちに行く場所を作っておくこともそうですし、
顔見知りを作っておくことも大切なことだと思うのです。

人の話をちゃんと聞くことができて、自分の話もできる。

ネットでは、定年後の時間をどう使うのかであったり、
老後のための資金をどうするかというお話が多いように感じていますが、

「今日はどうしたの」と、笑顔で迎えてくれる人がちゃんといる。

そうした場所を、元気なうちに作っておく。

そのことについて語られている方は、少ないように思うんですね…

私たちが昼のちづるを考える理由の一つは、そうしたところにもあるのです。

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