「色恋よりも、温かさ。」― 私たちがこんなスナックを続けている理由

最近、お客様から恋愛のお話を聞くことが続きました。
何歳になっても、人を好きになるというのはいいものだと思います。

私は、恋愛に年齢は関係ないと思っていますので、
「彼女ができた。」と、嬉しそうに話されると、こちらまで嬉しくなりますが、
その一方で、「ん?」と思うこともあります。

※ここで紹介するお話は、個人が特定されないよう、一部の内容や表現を変えています。

ある女性と知り合い、お付き合いすることになったお客様。
それはもう嬉しそうで、とても親しい関係になったとのこと…

ところが、
お付き合いを始めてしばらくすると、もっといいものを食べたい。
ここに行きたい。あそこにも行きたい。というように、
少しずつ女性からの要求が増えていったそうです。

あるときには、
二人で出かけるはずだったのに、ほかに友達まで一緒に来て、
その分まで彼が支払ったこともあったそうです。

彼自身、かなり早い段階から、「何かおかしいな」とは感じていたそうですが、好きだったんでしょうね。
好きだから、「まあ、いいか」ということだったと思うのです。

そうしているうちに、かなり親しくなった二人でしたが、
ある日突然、女性は彼のもとを離れてしまったそう…

それでも彼は、まだ彼女のことが忘れられないようで、
「戻ってきてくれないかな。」と考えていたようですが、
それを聞いた私たちは、難しいんじゃないかな。と思いました。

お話を聞いている私たちには、
「もしかすると、お金のことも大きかったのかな」と感じる部分がいくつかありました。

本当のところは分かりませんが、
彼が途中で感じた小さな「ん?」が、大事なヒントだったんじゃないかなと思うんですね。

別のお客様は、ある女性とメールのやり取りを楽しまれていました。
一日に何十通も来るんだよ!と喜んでいるお客様。

毎日のようにやり取りを重ねて、会うことになったそうですが、
当日、女性から、「もう近くまで来ているんだけど、場所が分からない」という連絡が来ていました。

「タクシーで向かっている。」って…

その話を聞いたとき、私は、「ん?」と思いました。
近くに住んでいるという女性が、タクシーに乗っていて、
待ち合わせの場所まで来ることができないというのは、どうにも不思議に感じました。

彼はずいぶん長い時間待っていましたが、
結局、その女性は来ませんでした…

それまでのお話を聞きながら、
私たちは、もしかすると、会うことよりもメールのやり取りを続けることの方に目的があったのかな。
そんなことも思いました。

それでも、そのときの彼は、「もう少ししたら来るかもしれない」って、
そわそわしながら待っていたんですよね。

もう一人のお客様は、
あるお店で働いている女性を好きになったそうで、
「付き合ってほしい」と伝えたそうです。

女性から返ってきた答えは、「少し考えさせて。」というものだったそうで、
彼はその後も、その女性のお店へ何度も通ったり、
特別な日にお店へ誘われたりしています…

それなのに、
二人だけの普通のデートは、一度もないんですね…

「付き合うのか、付き合わないのか」という返事も、まだもらっていないよう…

お客様にお店へ来ていただくことも、
特別な日に来ていただくことも、夜のお店では珍しいことではありませんし、
それを悪いことだとも思ってはいないのですが、

ただ、「少し考えさせて」
という言葉によって残された「もしかしたら」が、
ずっと彼をつなぎ止めているように見えることが、私たちには少し気になったことでした。

三つとも、まったく違う話で、
相手の女性が何を考えていたのかも、私たちには分かりませんが、
この三人のお話を聞いていて、共通しているものが一つあるような気がするんですね。

それは「もしかしたら」という期待。

もしかしたら、本当に自分のことを好きなのかもしれない。という思いもあるでしょうし、
もしかしたら、戻ってきてくれるかもしれない。と期待する気持ちも分かります。

もしかしたら、今日は会えるかもしれない。
もしかしたら、「付き合おう」と言ってくれるかもしれない。

人を好きになっているときの「もしかしたら」という気持ちって、
私たちも若い頃に経験しましたが、とても強いものですものね。

その「もしかしたら」という期待を、商売の中ではお金に変えることもできる訳ですが、
ママが昔からよく言う言葉は、「相手に期待させては、責任が取れないもんね」というもの。

ママも私も水商売の経験がほとんどありません。
ママはお友達に頼まれて、少しお手伝いをしたことがあるくらいで、私は全くありません。

ママはお手伝いをしていたとき、いろいろなものを見たそうです。

とてもきれいだけれど、性格はあまり良くない女性。
もう一人はとても優しくて、心のきれいな女性。

その女性は、誰に言われることもなく、
誰よりも早くお店へ来て、お店の掃除もトイレ掃除も一生懸命していたそうです。

ところが、お客様に人気があったのは、きれいな女性の方だったそうで、
一生懸命働いているもう一人の女性は、お客様からは全く相手にしてもらえなくて、

「お前は水を飲んでろ!」なんてひどいことを言うお客様までいたそうです。

ママは、そういうものが嫌だったんだと思います。

女性としてどれだけ男性の目を引くか。
そこに大きな価値が置かれてしまう世界…

ママ自身、女性の魅力がお金になることを知らないわけではありません。

昔から、そういうことで利益を得ていた人も見てきたようですし、
ママ自身もいろいろなお誘いを受けてきたそうです。

若い頃には、ミスコンなど、人前に出るようなことを勧められたこともあったそうですが、
本人はそういうものにまったく興味がなくて、ちやほやされるのも好きではないんですね。

私から見れば、ママは外見もきれいだと思いますし、中身も素敵な女性なのですが、
でも本人は、昔から、「女性であることをウリにして仕事をしたくない。」という人なんですね。

ちづるを始めた頃にも、ママを目当てに来てくださる男性が多くいて、
そんな風になるんじゃないかという心配が現実になってしまったことを後悔したことがありますが、

ママはその気持ちにこちらから応えているような素振りをして、
来店につなげようとはしませんでした。

相手の好意につけ込んで、売上を作ることはしたくない。
ということなのだと思います。

「相手に期待させては、責任が取れないもんね」というのは、
本当にその通りだと思うのです。

コロナが明けた頃、ちづるも若いスタッフを採用したことがありました。

私たちが考える増員の意味と、男性のお客様の捉え方の違いから、
「同伴しようよ」「仕事が終わったら一緒に飲みに行こうよ」なんて、
そんな話も出るようになりましたし、中には、体を触るお客様までいました。

そうしたことも含めて、
税理士の先生に相談したところ、これまでの価格で提供することは良くない。
そう指摘を受け、先生の指導の下、これまでの料金を見直すことにしました。

その頃、若いスタッフたちもいなくなりました。

値段は上がる。若い子はいない。のWパンチで、お客様は、ずいぶん減りました。

ですが、ママは「料金を戻そう」とも、
「また若い女性を入れて、男性のお客様を呼ぼう」とすることはありませんでした。

ママは、「そんなことをしなくてはいけないくらいなら、はじめから成り立っていないっていうことだもんね」と話してくれましたが、

だからといって、私たちは色恋営業をしているお店を否定しているわけでもありません。

それぞれのお店に、それぞれの営業の仕方があって、
それを楽しみに行かれるお客様もいらっしゃいます。

ただ、私たちは、それを選びたくないというより、期待させたその先の責任を取ることができませんし、
どうしても、そういう営業ができないんですね。

色恋よりも、温かさ。

私たちが、お客様に感じていただきたいものは、そちらなんですね。

もちろん、家族ではありませんし、恋人でもありませんが、
そっと寄り添えるような私たちでいたいというのでしょうか。

そうした場所、私たちでありたいのです。

そう考えると、色恋を目的に来られる方には、
ちづるは相当つまらないお店だと感じられると思うのです。

なので、「そういうのは、いらない。」「そういうのは卒業したよ。」
という方には、気に入っていただけるお店なのかもしれません。

ただ。
私たちのこうした選択は、そのまま経営の厳しさにもつながるんですよね…
それを地で行くような営業をしている私たちは、商売としては間違った選択をしているのかもしれません。

でも、私たちは、こういうお店をほかに知りませんでした。

家族ではなければ、恋人でもない。

でも、いつ行っても自分のことを覚えていてくれて、そっと寄り添ってくれる。

女性に「何らか」の期待をして行くのではなく、
そこへ行けば、なんとなくホッとする。

そんなお店が一軒くらいあってもいいと思うんですね。
私たち自身、ギラギラした空気の中にいると、どうにも居心地が悪いということもあります。

そして、もう一つ。

厳しい言い方にはなるのですが、
私たち自身は、色恋でつないだ関係を、ずっと続けていくことはできないと思っているということもあります。

本当にお付き合いするつもりがないのなら、
いつまでも期待を持たせ続けることなんて、できませんものね。

それを上手に引っ張り続けるというのがテクニックということなのでしょうが、
一人が離れたら、また次の人。

そんなふうに、お客様を「次の売上」として見るようになってしまったら、
だんだん私たちまでギラギラして、荒んでしまうような気がしますし、
そうした仕事でしたら、したくありませんしね。

できれば、豊かな気持ちで仕事をしていきたいと思うのです。
お越しくださった一人の人に、そのとき私たちにできる精一杯をしてお迎えしたい。とでもいうのでしょうか。

旅館やホテルに泊まったとき、「また、ここに泊まりたいな」と思うことがありますが、
私たちがやりたいことは、そうした仕事に近いのだと思います。

「また、ちづるに行きたいな」

そう思っていただけるように、できることをする。
豊かな気持ちでさせていただく仕事の方が、きっと良い仕事ができる。

私たちは、そう信じています。

これは、きれいごとで書いているわけではありませんし、
宣伝のために書いているわけでもありません。

実際、こんなことばかりやっているから、経営は今でも綱渡りなのですが、
ちづるに来てくださるお客様から、ときどき、「ここが一番いいよ」と言っていただくことがあります。

もっときれいなお店もあるでしょうし、もっと楽しいお店もあると思います。
もっと商売の上手なお店なら、いくらでもあると思います。

それとは正反対の私たちですが、「ここが一番いいよ」と仰っていただけると、
私たちが大切にしてきたことを、少しはお伝えできているのかな、と思うんですね。

ここなら任せても大丈夫。

そんなふうに信用していただけているのだとしたら、
それは私たちにとって、とても嬉しいことです。

もっとたくさんのお客様を乗せられる、大きな船にする方法もあるのかもしれませんが、
逆のことばかり喜んで続けてきた私たちですから、11年経っても手漕ぎボートのままなんですけれどね。😅

おまけに経営は綱渡り…

それでも11年間、なんとか沈まずにここまで来ることができました。

そうした選択が正しかったのかどうかは、今でも分かりませんが、
こんなお店が、一軒くらいあってもいい。というか、

私たち自身、こういう店が欲しかったのだと思うんですね。

そして、「ここが一番いいよ。」でなくても、
「ここがいいよ。」と、一緒に漕いでくださる方に恵まれたことを幸せに思うんですね。

12年目も立派な船になる見込みは立たないままですが、
たとえ、いつかもう少し大きな船にできる日が来たとしても、
私たちが選ぶのは、スワンボートくらいでいいのかな、と思うのです。

修復したボートに、お客様とママと私で乗り込んで、
12年目の海を、またゆっくり漕いでいきたいと思うのでした。

おしまい。

修復したボートで12年目へ

こんな風にはなりません…😅

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