スナック千鶴物語 第21話
霧島市国分「スナック千鶴(現在のちづる)」の実話をもとにした物語です。
第21話|突然のお別れ|スナック千鶴物語
神様が遣わせてくださったような彼女。
けれど、
お正月が明ける頃には、
少しずつ様子が変わっていきました。
彼女からの電話を受けては、
私たちは自宅を訪ねる毎日でした。
あまりにも真剣な口調で話すので、
私たちにはどうしても、
本当にそういうことが起きているようにしか思えなかったのです。
彼女は、
「警察が見張っている」
「近所の人が騒いでいる」
そう繰り返していました。
もし本当に警察が来ているのなら、
きちんと事情を説明するしかない。
そう思い、
彼女の自宅近くで何時間も車の中から様子を見ていたこともありました。
けれど、
警察らしき人の姿はありません。
近所が騒いでいる様子もありませんでした。
それでも彼女は、
嘘をつくような人ではありません。
だから私たちは、
「たまたま私たちが見に行くタイミングが違ったのかもしれない」
そんなふうに思っていました。
お正月休みも終わろうとしていた頃。
玄関の呼び鈴が鳴りました。
出ていくと、
そこには彼女が立っていました。
毎日のように警察が張り込んでいること。
近所の人から嫌がらせを受けていること。
そして、
「ここへ泊めてもらえないでしょうか」
と、
とても不安そうに話していました。
私たちは、
彼女には大きな恩がありました。
もちろん断ることなどできません。
少しでも安心してもらえればと思い、
そのまま泊まってもらうことにしました。
けれど不思議なことに、
一緒に食事をしたり、話をしている時の彼女には、
特に違和感がありませんでした。
だからこそ私たちは、
「やっぱり本当に何かあったんだろう」
と思っていたのです。
彼女は遠慮深い人でした。
もっと気を遣わず過ごしてくれればいいのに、
朝になると、
「迷惑を掛けるので、温泉でも行ってのんびりしてきますね」
そう言って外へ出掛けていきました。
そんな生活が3日ほど続きました。
そして彼女は、
最後まで笑顔を見せたまま帰っていったのですが、
それを最後に連絡が取れなくなってしまったのです。
私たちは心配になりました。
「本当に逮捕されてしまったのでは」
そう思い、
警察へ行ってみました。
けれど、
そのような事実はありませんでした。
彼女の自宅も何度も訪ねました。
車は停まっている。
けれど、
生活している気配がありません。
何か事件へ巻き込まれてしまったのではないか。
そんな不安ばかりが募っていきました。
彼女が姿を消す少し前。
「誰も信用できないので預かってほしい」
そう言って、
ママへ預金通帳と実印を預けていたそうです。
もちろん私たちも、
彼女と連絡が取れなくなるなんて思ってもいませんでした。
だから、
きっとまた連絡が来る。
そう信じて待ち続けていました。
それから二か月近く経った頃だったと思います。
市役所から連絡がありました。
詳しい事情は個人情報になるため教えていただけませんでしたが、
彼女は現在病院で治療を受けていることだけは分かりました。
私たちは、
預かっていた通帳と実印のことをお伝えし、
役所の方を通じて返却していただくことになりました。
その際、
私たちがずっと心配していたことを話すと、
心の不調や、
認知機能の低下による可能性もあることを、
担当の方から聞かされました。
隣町の病院にいることまでは教えていただけましたが、
それ以上のことは分かりませんでした。
突然のお別れでした。
もっと何かしてあげられなかったのだろうか。
ママと二人、
しばらく落ち込む日が続きました。
後から知ったことですが、
彼女は私たちよりずいぶん年上だったそうです。
身寄りのない彼女と、
これからも一緒に生きていけたら。
そんな話をしていた矢先のことでした。
これまで出会ってきた誰よりも、
私たちのことを思ってくれていた彼女。
だからこそ、
あの時の悲しさ。
そして、
いつも心配して声を掛けてくれていた、
彼女独特のイントネーションを、
今でも忘れることができないのです。
彼女との写真は、
一枚も残っていません。
だからこそ、
私たちの感謝の気持ちを込めて、
あの頃を思い浮かべながら、
この画像を残しておきたいと思います。
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