ちづるのことを説明するとき、「静かなスナックです」
そんなふうに書くことがあります。
説明するのは難しいのですが、人と人との間に流れている空気が、
少し静かなのだと思うんですね。
ちづるは、いつもたくさんのお客様で賑わう人気店ではないことから、
心ゆくまで会話をお楽しみいただける日が多いように思います。
お仕事のことや、ご家族のこと。
昔のこともありますし、最近あった、ちょっとした出来事など…
私たちにはどうすることもできないようなお話もあれば、
難しいお話を聞かせていただくこともあります。
お話をしているだけで時間が過ぎていく夜もありますし、
楽しく歌ってお過ごしいただく夜もありますが、
気がつけば、帰る時間になっていることが多いようです。
「よか晩じゃったぁ」と、仰っていただけることがありますが、
その一言を聞くと、「ああ、今日はいい夜だったんだな」と、嬉しくなるんですね。
創業当初はママのことを気に入って、
お越しくださる方もいらっしゃいましたが、
そのお気持ちの先に、私たちは色恋を求めているわけではありませんし、
お客様に特別な期待を持っていただくことで、
何度も来店していただこうと考えたことは一度もありません。
色気で売上をつくることは、
ちづるが大切にしているお仕事とは大きく異なるものなんですね。
スタッフドリンクも、「売上になるんだから、何杯でも飲んでよ!」
そう仰ってくださるお客様もいらっしゃいます。
お客様のご好意は、ありがたく受け取らせていただくようにしていますが、
そのご好意を必要以上に売上へ変えてはいけない。
私たちは、そこを大切にしています。
それよりも嬉しいのは、「ちづるが好き」「ちづるに来ると落ち着く」
そう思って、扉を開けていただけることなのです。
不思議なもので、ママとの色恋を期待して来てくださる方より、
ちづるの空気を好きになってくださる方の方が、
お互い、良い関係になっていることが多いように思っています。
何度も顔を合わせて、会話をしているうちに、
少しずつ、お互いのことを知っていく訳ですが、
今来てくださっている常連のお客様とは「お店とお客様」というだけではない関係になっているような気がしています。
お友達のような、と言ってしまうと少し違うのですが、
時間を何度も重ねているうちに自然にできる、
お互いに信頼できる良い関係とでもいうのでしょうか。
常連のお客様をランチにお誘いさせていただくことがあります。
食事が終わって、車に乗ると、
「コーヒーでも飲みに行くか」と言われ、別のお店へ…
コーヒーが飲みたいわけではないと思うのですが、
そんな風に、さり気なくご馳走して下さるんですね。
商売下手な私たちのことを心配して、ボトルを入れてくださることもあるのですが、
「ありがとうございます」だけで終わりにはしたくなくて、
後日、お店が休みの日などにその方をお招きして、
一緒にゆっくり過ごすこともあります。
どちらがいくら使ったとか、
どちらが得をしたとか。損をしたとか…
そんな計算をしているわけではなくて、「ありがとうございます」と素直に思うことができて、
私たちも何かして差し上げたくなるとでもいうのでしょうか。
私たちのことを気にかけてくださるお客様には、
私たちも何かお返しをしたい、自然と心が動くのです。
そんな風にお互いに「してあげたい」が、行ったり来たりする関係って、
素敵ですよね。
もちろん、商売ですから、
売上がなければ、お店を続けることはできない訳ですが、
その奥で、ちゃんと気持ちのやり取りが続いているというのは、
嬉しいことなんですよね。
お店とお客様という関係ではあるのですが、
その前に、人と人ですものね。
今の常連のお客様とは、
そんなつながりになっているように思います。
やっていることは、水商売なのだと思います。
お酒をお出して、
ママと私が接客をさせていただいて、
その対価としてお金をいただくのですから、
水商売だと思うのですが、
お客様とのお付き合いまで、
「水商売」にしたいとは思えないんですね。
お客様の好意をどこまで売上に変えられるのか。
どうすれば、もっとお金を使っていただけるのか、だなんて、
そんなことばかり考えていたら、
きっとギラギラしてしまったと思うのです。
私たちが大切にしているのは、「今日は、いい時間だったな」
そう思っていただけること。
そして、
もっと時間を重ねたときに、「あいつらと出会って良かったな」と思っていただけることなんですね。
せっかく国分でお店をしてきたのに
「あいつらと出会って、大変な目に遭った…」では、あまりにも悲し過ぎますし、
そうしたお仕事ならしたくないですものね。
私たちもこれまで、いろいろなお店を利用してきましたが、
今でもお付き合いが続いているお店は数えるほどしかありません。
15年以上経った今でも個人的なお付き合いが続いているのは、たった2件だけ…
特別に安かったからでも、豪華だったからでもなくて、
その人たちのことが好きだったのだと思います。
お店を利用する「お客」という立場だけではなくて、
人と人との関係が育っていったのだと思います。
私たちもちづるをそんなお店にしたいと思うんですね。
なので、
ちづるは、いつまで経っても
小さな店のままなんですけれどね。
お客様が増えることは、もちろん嬉しいですし、
たくさんの方にちづるを知っていただけたらとも思っているのですが、
急にお客様が増えることを望んでいるかというと、そうではありません。
少しずつ、お客様との関係ができていき、
その頃にまたお一人との関係が始まる…
そんな風に、ゆっくり広がっていけばいいと思うのですが、
つくづく効率の悪い商売だと思うこともあります。
でも、今くらいの小さな店だからこそ、
大切にできるものもあるような気がするんですね。
お客様との関係も、ちづるで過ごす時間も。
大きくすることより、薄くしないことの方が大切で、
お客様と長くお付き合いしていくというか、
お客様と共に歳を重ねていける店でありたい。
12年目に入る今、そんなことを思うのです。
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