
第6話|理想とは違っていった店の現実
「あんたの店、国分で一番悪い店って評判になってるよ」
この一言は、私たち自身もどこかで感じていたことでした。
当時は、飲み放題・歌い放題で2500円というお店がいくつもあり、
多くは年配の女性が営んでいるお店でした。
その中で千鶴は、少しだけ若かったということもあったのだと思います。
本来スナックに通うことのなかった層が、
千鶴を“安いスナック代わり”として利用していたのではないか――。
一日のストレスを、ここで一気に発散する。
まさにそんな使われ方でした。
楽しく過ごしている間はいいのですが、
お酒が進むにつれて、雰囲気は変わっていきます。
声が大きくなり、態度が荒くなり、
中には暴力的になる方や、色恋を目的に距離を詰めてくる方も少なくありませんでした。
贔屓にしてくださる方もいましたが、
その方でさえ周囲の空気に引きずられ、
店内は次第に収拾のつかない状態になっていきました。
どんな店ができたのかと、同業の方が様子を見に来ることもありました。
その視線は鋭く、店内の隅々まで見たあと、
見下げるような笑みを浮かべていたのが、今でも印象に残っています。
「飲んで歌って2500円」
それをキャッチフレーズに始めた千鶴でしたが、
来てくださる方には少しでも良いものを使っていただきたいと、
グラスなどの小物は質の良いものや珍しいものを揃えていました。
けれど――
「カンパーイ!」の掛け声とともにグラスを強く打ちつけ、割れてしまうこともあり、
調度品も壊されてしまうことがありました。
箸置きが持ち帰られてしまうことも、何度もありました。
スタンド型のペンを気に入られた方に、
「あれをくれたら毎日通ってやる」と言われたこともありましたし、
グラスや酒器を欲しがる方も少なくありませんでした。
トイレの床も、水があふれたような状態になっていることがあり、
清掃をするたびに、胸が痛むこともありました。
少しでも良いものに囲まれて過ごしていただきたい――
そんな私たちの思いは、関係のないことだったのかもしれません。
「こんなもののために払う金が高くなる」
そう言われてしまうこともあり、
悲しくなることも少なくありませんでした。
閉店後に片付けをしていると、
なくなっているものがある――
そんなことも、この頃はよくありました。
こうした出来事もつらいものでしたが、
それ以上に苦しかったのは、
サービスを提供する私たちに向けられる言葉や態度でした。
吸い終わったことを確認して灰皿を下げただけなのに、
「おい!俺のタバコ、なんで捨てたんだ!」と
店内に響くほどの大きな声で怒鳴られたり、
お湯割りの作り方の順番をねちねちと指摘されたり。
中には、強い口調でこう言われたこともありました。
「かごんま弁も分からんのか! だから〇〇の女は嫌いだ!」
男尊女卑の傾向が強いと、地元の方自身も言われますが、
それをまともに受ける毎日は、本当に辛いものでした。
椅子に手足を縛られて、好きなだけ叩かれている――
そんな感覚に近かったのかもしれません。
そんなお店でしたが、
静かに過ごされるお客様も、確かにいらっしゃいました。
けれど、その方々が二度目に来てくださることはありませんでした。
残るのは、負の連鎖だけ。
それを止める術もなく、
お店の空気は、さらに悪くなっていくのでした。
この続きは、また次回に。

