第16話|千鶴を変えてくれた人|スナック千鶴物語

スナック千鶴物語 第16話
霧島市国分「スナック千鶴(現在のちづる)」の実話をもとにした物語です。



第16話|千鶴を変えてくれた人|スナック千鶴物語

彼女目当てのお客さんたちは、
彼女の退店と同時に来られなくなってしまいました。

けれど当時の私たちは、

「ママと私だけでは、まだ魅力あるお店は作れない」

そんなふうに感じていた頃でもありました。

お客さんの数は決して多くありませんでしたが、
空いた穴を埋めなくてはいけない。

そう思い、
募集年齢の幅を広げて、再び求人誌に広告を出しました。

前回と同じように、
経験者からの応募が多かったのですが、
年齢の幅を広げたことで、より多くの応募がありました。

ただ、
まったくの未経験という方は、
接客そのものに自信がない方も多く、

「人前で話すのが苦手で…」

という方も少なくありませんでした。

そんな中で出会ったのが、
言葉遣いも身なりもきちんとした、
とても落ち着いた雰囲気の女性でした。

夜のお店での経験者。

しかも短期間ではなく、
地元の高級店で長く働いてきたという方でした。

年齢は私たちよりずっと上に見えましたが、
履歴書を見ると、実は同世代。

派手さのあるタイプではありませんでしたが、
誠実そうな人柄と、
経験者特有の嫌な空気を感じさせない雰囲気に惹かれ、

「この人にお願いしたい」

と自然に思えました。

面接の時はとても地味な印象でしたが、
初出勤の日。

彼女はスカートスーツをきちんと着こなし、
メイクや髪型まで丁寧に整えて来られました。

その姿を見た瞬間、

「プロだ…」

と感じたことを今でも覚えています。

接客も上品で自然。

それでいて堅苦しくなく、
お客様からの印象もとても良かったんですね。

さらに驚いたのは、
そんな経験豊富な方なのに、
素人同然だった私たちをきちんと立ててくれることでした。

「これで千鶴の空気が変わるかもしれない」

「まだ神様に見捨てられていなかったんだ」

そう思ったほど、
彼女の存在は私たちにとって大きなものでした。

今思えば彼女は、
夜の世界を知らないまま必死に頑張っている私たちを見て、

「なんとか力になってあげたい」

と思ってくれていたのかもしれません。

彼女は、
それまでの千鶴のやり方を少しずつ変える提案をしてくれました。

当時の千鶴は、

「飲んで、歌って2500円」

という料金設定でした。

それは私たちなりのこだわりでもありましたが、
彼女は、

「このままでは、お店が続かないと思います」

と優しく話してくれました。

そして、

「500円だけでも上げてみませんか?」

と提案してくれたのです。

さらに、
キャストドリンク制を提案してくれたのも彼女でした。

ガラガラだったボトル棚を見て、

「安いボトルでもいいので、並べた方がスナックらしく見えますよ」

とも教えてくれました。

今思えば、
私たちの店はまだ、

“カラオケ屋さん”

の延長線のような状態だったのだと思います。

そこから少しずつ、

“スナック千鶴”

へ変わっていくための基礎を、
彼女がひとつひとつ教えてくれていました。

価格を3000円に上げることには不安もありました。

けれど、
当時の千鶴はサービス過剰な部分も多く、

「500円なら、きっと分かっていただける」

そう考えて決断しました。

彼女は、

「お酒なら私が頑張って飲みますから」

と、
私たちの身体のことまで気遣ってくれました。

当時は中瓶ビールを使っていましたので、
見ていて心配になるほど飲まれる日もありました。

それでも、
酔って取り乱すことはありません。

いつも丁寧で、明るく、自然な接客。

厨房へ来ては、

「ママ大丈夫?」

「困ったことない?」

と、
いつも私たちを気にかけてくれました。

さらに、

「暇な時は帰りますから大丈夫ですよ」

「団体さんが来たら電話してください。戻ってきますから」

とまで言ってくださっていました。

お客さんが減り、
店を立て直そうとしていたあの頃。

不安ばかりだった時代でしたが、
彼女がいてくれたことで、
私たちはいつも心強くいられました。

今振り返ると、
彼女はまるで、

神様が千鶴へ遣わせてくれたような人

だったような気がしています。

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